「心の時代」の
人間学講座
石川光男/船井幸雄/草柳大蔵 アス出版 

 身体機能を本来あるがままに使う

 私かこれからお話しする考え方で生命を見直すと、価値観、文化、ライフスタイルを考える時に役立つヒントを得ることができます。
 生命を本当に活かすということは、たいへんに難しいように見えますが、よく考えてみると、それほど難しいことではありません。
 人間には、生きるための機能がいろいろ備わっていますが、その機能を本来あるがままに充分使ってやると、自然に身体も健康になり、生きがい感も充実感も出てくる仕掛けになっています。生命に与えられた自然の潜在的な機能を充分に引き出すことが、生命を本当に活かす道である、というのが私の生命観の基本となっています。
 これでは話か抽象的すぎると思いますので、具体的な例を挙げてみましょう。
 私達は噛むというと、ただ物を噛み砕くことしか思い浮かべませんが、噛むという機能の意味するところは、そんなに単純なものではありません。私達の生命の機能は、想像する以上に複雑微妙で、しかも完全無欠に近いものです。それは、噛むという機能にも当てはまります。
 まず第一に、噛むということは、脳の発達に重大な影響を持っているということです。
 脳で使用された血液は、静脈を通って心臓に戻る前に、海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)という中継所へいったん溜まります。噛むことによって、その動作がこの部分を刺激して、いわばポンプの機能を果たし、脳の血液を心臓に戻すのに重大な働きをしているのです。噛んで顎が動くたびに、下顎の動く関節部にある翼突筋静脈叢(よくとつきんじょうみゃくそう)という部分が引っぱられ、それによって海綿静脈洞に溜まった使用ずみの血液を下に引き寄せ、心臓に血液を送るのを助けるのです。
 ですから、柔らかいものばかり食べて、噛むという動作をあまりしないと、脳の血液循環が悪くなります。逆によく噛むと、脳の血液循環が良くなって、脳の新陳代謝を助けますから、心身の健康に大きなプラスになります。
 
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