「心の時代」の
人間学講座
石川光男/船井幸雄/草柳大蔵 アス出版 

 よく噛めばガンを予防し老化を遅らせる

 第二に、よく噛めば、ガンが予防できるということです。
 これはごく最近の研究成果なのですが、唾液を取り出して試験管の中に入れ、そこに発ガン性物質を約30秒間浸けると、弱い発ガン性物質ですと驚くべきことに100%発ガン性を失うということが分かりました。かなり強い発ガン性物質でも8割ぐらい発ガン性が低下するということです。
 では、こんなにすばらしい唾液の能力を、私達は充分に使っているかというと、よく噛まずに物を食べているのが現代人ですから、30秒も口の中に食べ物をとどめている人は少ないはずで、この能力は有効に活かされていないのが実情です。
 これはもう、ほとんど文化の問題と言ってもよいでしょう。昔は「よく噛め」と子供に教えたものです。50回以上も噛んでいると、30秒ぐらいは口の中に食べ物が入っているので。唾液と食べ物は自然によくまざるようになるはずです。
 しかし、今は、どうでしょう。現代人は忙しい忙しいと言って、「とにかく飲み込めればよい」と考えていますから、5回か10回、義理に噛むだけです。「義理に噛む」、これが現代文化の一つの側面なのです。
 また、義理に噛んでも飲み込めるような柔らかい食べ物しか私達の周りにはありません。これも文化です。少し堅い食べ物だったら、5回や10回噛んでも飲み込めません。
 こうしたすばらしい能力を持った人間の機能を活かさないような生活を営んでおきながら、ガンになったらたいへんだから、早くガンの特効薬ができないか、とガン新薬登場を心待ちにしているのは、かなり身勝手な現代人の姿を象徴しているのではないでしょうか。
 第三に、よく噛むと老化を遅らせることができる、ということです。
 誰でも老化しますし、それを止めることはできないのですが、老化のスピードを落とすための機能も、私達の身体にいろいろ備わっています。そのうちの一つが。噛むということです。
 私達が物を噛みますと、その刺激によってパロチンというホルモンが分泌されます。このホルモンは、筋肉の老化を防ぎ、肌のつやを良くする効果があります。だから。よく噛んで食べれば、肌の老化のスピードを遅くするという効果があります。
 このように、噛むということ一つをとっても、よくも、これだけ複雑微妙にできているものだな、と驚かされる機能が私達の身体には備わっています。しかし、それを活かすような文化やライフスタイルを私達は持っていません。ここに大きな問題があるということが、これでお分かりいただけたと思います。
 
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