「心の時代」の
人間学講座
石川光男/船井幸雄/草柳大蔵 アス出版 

 生命力を活かす情報の出し入れ

 情報の出し入れについても同様です。情報も入れるだけでなく、出すことに努力しなければなりません。情報は心と密接なつながりを持っているので、心と物のつながりの問題が出てきます。
 人間は、心と物としての身体が密接につながっているのですが、生物学には心の話は出て来ません。医学の本でも心の問題はあまり取り上げられません。心身医学は現代医学の中では、まだ狭い領域の一分野に過ぎません。
 なぜこういうことになるかと言えば、これまでの自然科学は研究対象を「もの」に限定してきたからです。しかし、人間の生命から多くの事を学ぶためには、心と身体のつながりに着目する必要があります。
 物質の場合と同じように、生命を活かす情報はどんどん取り入れるべきですが、腸内の老廃物のように生体に悪影響を及ぼす情報は、できるだけ早く出してしまわなければなりません。しかし、これがなかなか難しいのです。
 恨み、怒り、悲しみ、妬みなど生体に悪影響を及ぼす情報を後生大事に抱え込んで、思い出しては牛のように反芻するわけです。一カ月も前のことを思い出して、「あいつめ!」などと怒りを新たにしたりします。やらなくてもいいことをやるのが人間ですから。仕方がないと言えば仕方がないのですが、身体への影響を考えると無視できない問題です。
 恨み、怒り、悲しみ、妬みなどの感情は、ただちに身体の生理状況に悪い影響を及ぼします。このような精神的な情報は、自律神経系とホルモン分泌系、および免疫系の働きのバランスを崩し、生理機能の異常を引き起こします。人間である以上、これは避けられません。ですから、生命に都合の悪い感情をできるだけ避けることが、生命を活かす道なのです。
 生命に悪い影響を及ぼす感情を、マイナスの感情と呼ぶことにします。逆に、人に対する思いやりや平和な心は、生理機能を良い方向に向かわせます。これらの感情はプラスの感情ということになります。古来、多くの宗教が平和な心や、愛・慈悲などを説いているのは、生命の潜在力を活かすという視点から見れば、合理的で科学的な考え方なのです。
 ところが、理屈は分かっていても、やっぱり腹を立てたり、恨んだりするのが人間です。この問題について、私は学生時代にたいへん悩んだ経験があります。
 
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