「心の時代」の
人間学講座
石川光男/船井幸雄/草柳大蔵 アス出版 

 環境を守る生命システムの驚くべき力

「生命はつながりである」ということは、単に身体の中の現象だけではなく、私達は外部の環境ともつながっています。そこで、自然と人間の関係について少し考えてみましょう。
 私達は良きにつけ悪しきにつけ西欧文化の影響を受けて、その中にどっぷりひたっているわけですが、私から見ると西欧文化は、大きな長所があるけれども、ある種の欠点を持っていると言わざるをえません。
 たとえば、「自然を征服する」という言葉があります。私は好きではない言葉なのですが、西欧文化の中では、ごく当たり前の発想なんですね。実は科学技術の研究も、ややもすると「自然を征服する」という発想でやりかねないし、実際に一部ではやっているわけです。
 しかし、私は、自然は征服する相手ではない、そういうふうにとらえるべき存在ではないと考えています。人間は、自然を征服するような立場にあるものではなくて、むしろ自然の中で生かされている存在が人間だと考えるべきだと思っています。だから、人間も自然の秩序維持に協力すべき存在であろうと思います。
 私達は案外気付いていないのですが、人間以外の生命システムでは、誰に教わったのでもないのに、驚くほどの知恵で自分達の環境を守っているのです。人間はその恩恵にあずかっているに過ぎません。
 たとえば、地球の年齢は35億年とか40億年と言われていますが、その長い年月の間には、太陽の熱エネルギーの放射が2割から3割ぐらい低下したことがあります。そうなると、本来ならたちまち地球が冷えてしまって、生命は存在し得ないはずなのですが、そういう時期でも生命を守るような自然の調節作用が働いていたと考えられています。
 太陽からの熱が減りかけると、太陽熱を良く吸収するような藻が増えたために、地球の熱吸収が良くなりました。誰に教わったわけでもないのに、植物体はこうして自分達の環境を守ってきたのです。
 それから、ある時期には地球上の炭酸ガスが非常に増えたことがあります。その時に何か起こったかというと、海水に溶けた大量の炭酸ガスをサンゴが吸収して海底に固定してしまったのです。そのおかげで、地上の炭酸ガスが増えずにすんだわけです。
 このようなことが、いたる所で自然に起きているのが生命システムなのです。生命システムというのは、自分達の環境を作り出し、かつ守っているのです。
 ところがどういうわけが、万物の霊長と言われる人類だけが、盛んにそれに逆行するような文化を作り続けています。自分達の環境をどんどん壊していっています。
 そういう文化を先進国文明だと称してすましていることが、果たして良いものかどうか、私は非常に疑問に思うわけです。
 
← [BACK]          [NEXT]→
 [TOP]