「白人スタンダード」という
新たなる侵略
清水馨八郎・著 祥伝社 

 二重、三重に自然の掟を破ってきた白人

 今ここに100人を養う穀物を牛の飼料として与え、牛肉にして食べるとなると、10人も養えないそうである。人はこれを美味で贅沢な文明食と称してありがたがっている。空間的にも畑と牧場では、1人の人間を養うに必要な面積で10倍以上の差がある。土地利用の集約性でも。田畑は牧場よりはるかに勝っているからである。
 世界的に見ると、肉食飽食のアメリカ人が1人死んでくれると、インド人が50人生きられると言われる。贅沢なアメリカ人1人を支えるために、50人のインド人が犠牲になっていることを知らねばならない。
 肉食中心の白人は、狭いヨーロッパを牧場にするには限界があるので、近世になると世界に獲得した広大な植民地を次々と牧場化し、飼料穀物を植え、畜牛生産を高めて安い牛肉を母国に輸出し、また海外にも売り捌くということを行なってきた。
 オーストラリアでは、牛の数が人の数を40パーセントも上回っている。南米アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイでは、牛と人の数が同じである。これはヨーロッパ発想の牛肉文明の、新大陸への民族移動と見ることができる。
 アメリカではヨーロッパ人の移民によって、野牛のバッファローが絶滅し、森林の9割が伐採され、牧場や畑に変えられてしまった。
 世界の人々の所得が向上し、それにともなって牛肉消費量が急激に高まってくると、各国の畜産業界は生産を合理化するために、牛肉製造器である牛に、各種の人工操作を加えることになった。元来野の草を食べるべき牛に、濃厚な穀物を与えて肥育し、さらにホルモン剤などのクスリを投与して無理矢理成長を早め、贅沢な霜降り肉に育て上げている。さらに資本の論理から。廃棄すべき牛の臓モツや肉骨粉を飼料に混ぜて与えている。つまりやってはならない共食いをさせている。栄養価の低い雑草を食べて反芻する動物の牛に、栄養価の高いトウモロコシなどを食べさせて肥満させ、商品化している。
 このように、人は自然の掟を破る二重、三重の罪を犯している。これがいつか人間社会に禍となって返ってこないはずがない。すでに人間社会では肉の飽食により生活習慣病が蔓延し、狂牛病からヤコブ病が発生することになった。
 
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