「白人スタンダード」という
新たなる侵略
清水馨八郎・著 祥伝社 

 日本人と牛との、長くて深いお付き合い

 さて人類は、何千年もの昔から動物たちの助けを借りて生きてきたことに感謝せねばならない。中でも牛は人の歴史と共に存在し、多くの地域と民族に神聖な動物として神格化されてきた。西洋文明はある意味で牛の背中の上に築かれてきたとも言える。
 どの民族も赤ん坊や幼児に最初に教える絵本は、ウシさん、ウマさん、クマさん、ウサギさん、ネズミさんの可愛い動物たちである。幼児が最初に欲しがるものが、これら動物の「ぬいぐるみ」である。幼児たちはまだ見ぬ動物たちに本能的に親しみを感じ、触れてみたいと思うのである。動物愛護は人間の自然に具わった本性なのである。とくに日本では、山の熊たちと遊ぶ金太郎のお伽噺がそれを代表している。
 日本は瑞穂(みずほ)の国で、神代から平和に農耕民族として暮らしてきた。牛や馬はよく働いてくれる忠僕として、同じ屋根の下で飼って家族同様に可愛がった。その美風は、東北の民家の「曲屋(まがりや)」に今も残っている。
 飛鳥時代に大陸からの渡来人が肉食を持ちこんだ。外国かぶれの軽薄な人士がこれを真似したので、天武天皇の時代に詔勅を出して肉食を戒めている。その後桓武天皇まで、20回ほど肉食禁止の詔勅が出されている。このように日本では長く肉食の風習はなかったが、明治になってキリスト教と一緒に本格的な肉食が入ってきた。すき焼などといって開化鍋が親しまれるようになった。以来日本人の牛肉好みは高まる一方で、現在は「牛丼」が安売りを競い、ブームを呼んでいるありさまである。
 日本でも、山村では狩猟によって猪や鹿などの獣の肉を食べる風習があったが、それでも鹿の肉をモミジ、馬肉をサクラ、猪肉をボタンと呼んで感謝と敬意を表している。この点西洋でも、牛肉をビーフ、豚肉をポーク、羊肉をマトンと呼んで、獣を直接食べることへのためらいを表わしてはいる。
 世界の食性地図を見ると、ヒトは穀物、菜食を基本に生まれた生物なのである。西洋を除けばすべて植物型の食性になっている。だから美味で栄養価が高いからといって、西洋の肉食文明を世界に宣伝、普及させ押しつけることは自然の摂理に反することで、人類を破滅に追いやることになりかねない。
 
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