ヤオイズム
矢追純一著 三五館 

 あなたしかいない世界

 あなたは言うだろう。
「たしかに自分が目をつぶると世界が消える。だからといって、それで外の世界がなくなるわけではない。私が存在しなかったとしても、相変わらず地球はあるし、そのまわりを月が回り続けている」
 本当にそうだろうか。あなたが存在しなかったとしても、外の世界は実際に存在しているのだろうか。
 じつは、その証拠はどこにもない。なぜなら、そもそもあなたが存在しなかったら、外側の世界が実際にあるかないかを確認できないからだ。あなたはいつも観察者であり、その観察なしには答えを出しようがないのだ。アインシュタインを生涯悩ませ続けたのも、じつはこの問題だった。
「何をバカなことを言っているのだ」と片づけてしまうようなら、あなたはまだ妄想の中で眠り続けているのだ。目を覚ましてほしい。世界にはあなたしかいないのだ。
 たしかに、外側の世界が実在するという客観的な証拠が、あなたのまわりにはたくさんあるように見えるだろう。あなたが都会の街を歩いていれば大勢の人とすれ違うし、田舎にいればのどかな田園の風景が目の前に広がっているかもしれない。それらはリアルな存在だ。
 図書館へ行って、あなたが生まれる前の新聞の記事を読めば、あなたが存在しなかったときにも、さまざまな事件があったこともわかるだろう。現にこの本を読んで、あなたは私の過去についても知ったはずだ。調べようと思えば、約230万光年という気の遠くなるような距離にあるアンドロメダ銀河の驚異的な画像すら、インターネットですぐに検索して見ることができる。
 その意味では、宇宙を含めて何もかも、客観的事実として存在している。そんな当たり前のことを疑う必要などどこにもない。あなたはそう思うだろう。
 しかし、その「当たり前」と思ってしまうことがくせ者だ。そこには先入観がある。何度も言うが、いくら客観的事実を調べても、それを確認しているのはあなたであることに変わりはないのだ。
 この本を読んでいるのは、あなただ。あなたがすべてを確認している。あなたが確認しなかったら、それらが実在しているか、あるいはしていないかさえわからないのだ。もちろん、あなたにとってそれらが存在している意味すらないのだ。
 
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