[幕末明治]
日本は外国人に
どう見られていたか

来日外国人による「ニッポン仰天観察記」
「ニッポン再発見」倶楽部 三笠書房 
第4章 礼儀正しく実直な人々

 『おはよう』の気持ちいい挨拶と
 礼儀正しさに魅了される


 「礼儀の国にして心霊の扶(たす)ける所」

 2011(平成23)年3月11日、日本は東日本大震災に見舞われた。地震・津波・原発事故が次々と起こり、未曾有の災害となった。だが、日本人は冷静さを失わず規律ある行動をとった。被災者でさえ、公衆電話やコンビニの前に整然と並んだ。この礼儀正しく秩序ある光景に、世界中が称賛の声をあげた。
 また、2014(平成26)年のサッカー・ワールドカップでは、現地のブラジルで日本代表チームの試合を観戦した日本人サポーターが、試合後にスタンドのゴミを拾ってから帰ったことが大きな話題となった。地元紙は「試合には負けたが、礼儀正しさで高得点をあげた」と報じ、各国のファンも拍手をおくった。
 このように日本人の礼儀正しさは、いまでは広く世界の知るところとなっている。
 だが、それは昨日今日はじまったことではない。じつは古代から、日本人は礼節を重んじる民族として外国人から絶賛されていたのだ。
 7〜9世紀、日本は唐に遣唐使を派遣し、大陸の優れた文化を吸収しようと試みた。彼らは礼節を重んじる優秀な人材だったのだろう、唐の人々は日本に「礼儀の邦(くに)」というイメージをつくりあげた。
 唐の第6代皇帝玄宗(中国/皇帝)が、日本の聖武天皇へ送った勅書には、「日本国主明楽美徳に勅する。彼は礼儀の国にして神霊の扶ける所」と記されている(『曲江集』)。
「主明楽美徳」とは、天皇(すめらみこと)の訳。この五文字すべてに佳字(よい字)が用いられていることからも、玄宗の日本に対する称賛ぶりが見てとれる。

 「国全体が礼儀作法を教える高等学校」

 幕末明治期に日本を訪れた西洋人の多くも、日本人、とくに庶民の礼儀正しさに驚きの声をあげた。
 たとえば、江戸前期に来日したエンゲルベルト・ケンペル(ドイツ/医師)は、「世界中のいかなる国民でも、礼儀という点で日本人にまさるものはない。(略)身分の低い百姓から最も身分の高い大名に至るまで大へん礼儀正しいので、われわれは国全体を礼儀作法を教える高等学校と呼んでもよかろう」と、日本人の礼儀正しい国民性を大絶賛している(『日本誌(鎖国論)』)。
 日本人の挨拶に感銘を受けた者もいた。明治期に活躍したジョン・レディ・ブラック(イギリス/ジャーナリスト)と、バジル・ホール・チェンバレン(イギリス/日本学者)だ。
 ブラックは、「通りがかりに休もうとする外国人はほとんど例外なく歓待され『おはよう』という気持ちよい挨拶を受けた。この挨拶は、道で会う人、野良で働く人、あるいは村民からたえず受けるものだった」と、日本人に挨拶されて気分をよくしたことを綴っている(『ヤング・ジャパン』)。
 チェンバレンに至っては、「日本人の挨拶は心底から生ずる礼儀であり、(略)日本人の真の親切心に根ざすものである」と、日本人の精神性の高さにまで言及している(『日本事物誌』)。
 挨拶はどこの国でもコミュニケーションの基本。その挨拶で高い評価を受ける日本人は、やはり礼儀正しい国民だといえるだろう。

 武士道に由来する礼儀正しさ

 時代は下り、ブルーノ・タウト(ドイツ/建築家)は、公共交通機関を利用したとき、日本人の礼節に感心したようだ。
「道路を避ける時、互いに『有難う』と言い交わす自動車運転手、何度も何度も『有難うございます』と繰り返すバスの女車掌やエレヴェーター・ガール、満員で乗客に立っていて貰わねばならないことを詫びる車掌、手袋をはめた鉄道従業員のおしなべて丁寧な態度は、やはり同一の範疇に属する」(『ニッポン』)
 日本人の礼節については、エドウィン・アーノルド(イギリス/随筆家)も語っている。日本人なら非常に納得のいく言葉だ。
「日本には、礼節によって生活を楽しいものにするという、普遍的な社会契約が存在する。誰もが多かれ少なかれ育ちがよいし、『やかましい』人、すなわち騒々しく無作法だったり、しきりに何か要求するような人物は嫌われる」(『ジャポニカ』)
 ではなぜ、日本人はこれほど礼儀正しい国民になったのだろうか。
 はっきりした理由は明らかになっていないが、その理由の一つには武士道が関係しているといわれる。
 中世から近世にかけて支配身分であった武士は、倫理性が高く、礼儀や慎みといった美徳をことさら重視した。そうした武上身分の倫理感が社会全般に広まり、日本人の礼儀正しい精神性を形成したと考えられているのである。
 いずれにせよ、日本人の礼節が世界で高く評価されているのは疑いようのない事実。
 このよき国民性を、長く継承していきたいものだ。
 
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