生命思考 
ニューサイエンスと東洋思想の融合 
石川光男・著 TBSブリタニカ 1986年刊
 

 外部情報に振り回されている

 その場合、情報の出し入れのバランスをとることが決め手になる。ある種の情報を一方的に取り込むだけでは、生き方のバランスを崩すおそれがある。
 現代は情報化時代でじっとしていてもさまざまな情報が入ってくる。それを盲目的に受け入れるだけでは情報に振り回されてしまう。
 たとえば赤ちゃんに関する情報がいまたいへん多い。その情報はすべて標準主義でできている。生まれるときの体重はこのぐらいで、こんな動きかたをして、食べ物はこの程度、といった具合に書かれているのが多い。初めて母親になった人は、この標準に照らし合わせて赤ちゃんを育て、ちょっとちがった動きをすると不安になり、「どこか悪いのではないか」と思う。「赤ちゃん110番」にはその種の相談が非常に多いという。
 ところが「110番」の担当者がよく聞いてみると。その赤ちゃんは異常どころか全く正常、というケースが多い。育児書などから入ってくる情報だけが基準になっているからこういった混乱が起きるのである。生命体には個性があり、外からの情報はあくまでも平均値を示しているにすぎないことを忘れているのだ。
 日航機の事故で一躍注目されるようになった心身症の場合も、その見分け方が情報として流されると、それを基準にする人が少なくない。たとえば10項目のうち7項目当てはまると、自分は心身症だ、と思い込んで医者にかかる。ところが専門医が診断するとストレスが少したまっているにすぎないことが多いのである。
 赤ちゃんの場合も心身症の場合も、外部からの情報に振り回されて、別な種類の情報とのバランスをとろうとしないからである。入って来る情報をコントロールし、生命体の内部から出される情報にもっと耳を傾けるべきだろう。
 
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