生命思考 
ニューサイエンスと東洋思想の融合 
石川光男・著 TBSブリタニカ 1986年刊
 

 ガン細胞は「タコ壷社会」

 ガン細胞は前に述べたように情報の交換をしない。そのため、勝手に増殖を続ける異常な細胞である。ふつう生体内の細胞はある時期までくると細胞分裂をやめて死に、全体として量のコントロールをしている。これは細胞社会の中で一種のコミュニケーションがスムーズに行われ、全体としての量をコントロールしているからと考えられている。
 ガン細胞の中には、個体の中で無制限に増殖をするにもかかわらず、個体からとり出して培養するとかえって増えにくいものがある。ところが、正常細胞を培養したあとの「おふる」の培養液の中ではどんどん増えるのである。つまり、正常な細胞社会の生産物だけをしぼりとって生きているのがガン細胞である。
 正常な細胞は常に相互に情報をギブ・アンド・テイクしながら全体のバランスをとるようになっている。正常な細胞は一定の回数の分裂をするとぴたっと止まる。赤ちゃんの細胞なら50回、40歳代なら30回、80歳ぐらいになると赤ちゃんの半分以下の分裂回数である。正常な細胞には必ず死があるのに対しガン細胞には自己死がなく、生だけしかないのである。およそバランスなどということは関係ない。
 私たちの社会にも自分たちのグループ内だけで情報交換をし、それを超えた人たちや社会、あるいは自然環境とは関係を持とうとしない人たちがいる。「タコ壺社会」というのは、こういうグループで構成された社会である。
 人間同士だけで情報交換をして、自然との情報交換をしないのも基本的には同じことで、これはガン細胞社会でしかない。
 
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