大世紀末 
サバイバル読本
“食育”編
浅井隆+花田美奈子・太田晴雄
総合法令
 
第1章 その食生活があなたを殺す

〈コラム〉 一倉定氏と「正食の原理」

 名経営コンサルタントとしてその名も高い一倉定さん(一倉経営研究所所長)が、「正食」の体現者であることは知る人ぞ知るである。
 一倉先生はたしかいま76歳になられると思う(平成6年現在)が、人は先生のことを“超人”とか“化け物”と呼んでいる。理由は、その恐るべき体力による。
 経営コンサルタントという激職。寸暇もない多忙。北は北海道から南は沖縄まで飛び回る。年間60日余りのセミナーは、1日5時間立ちっぱなし。原稿書きは飛行機の中や新幹線の中……。
 それでいて、「絶対に疲れない」とおっしゃるのだ。ゴルフも、1日
ワン・ハーフ回って翌日もケロリ。眼鏡なしで新聞を読む。背筋はまっすぐ伸び、はや足。若者も置いていかれるスピードだ。まさに超人、化け物の名にふさわしい。
 そしてその秘密は、「正食の原理」にもとづく独特の食事法にあった!
「私の食事はね、栄養学者に言わせたら、そりゃもう大欠陥食と極めつけられること間違いなしでね。みなさんからは、いったい、アンタの体はどうなってるんだ?ってアキレられたり、不思議がられたりするんですがね」と一倉さん。
 ビタミン剤だとか、朝鮮ニンジンだとか、あるいは深海ザメのエキスだとか……。そういったものとは一切縁がない。いや、むしろそういったものと絶縁したところから、現在の健康体が始まったという。
 で、一倉さんが「正食」という食養理論に到達するには、やはりそれなりの“健康ドラマ”があった。
 いまから30年前、一倉先生が経営コンサルタントを開業した直後、多くの先輩たちがあまりの忙しさと不規則な生活で次々と病魔にとりつかれ、倒れていく姿を見て、「これはいかん。食事に気をつけなければいけない。まず食事からだ」と一念発起。近代栄養学の書物を片っぱしから読みあさったというのだ。
 そして、その教えるところに従い、忠実に守って実行した。栄養のバランスに注意し、カロリーに気を配り、新鮮な野菜や果物、カルシウム錠、ビタミン剤も欠かさない。しかし、その結果はどうだったか……。およそ10年後、一倉先先生の体はガタガタに崩れ、まさに“病気のデパート”になっていた!
 血圧は160、血糖値は糖尿病寸前、十二指腸かいよう、大腸カタル、肝ぞう……。
 コレステロールは異常高、中性脂肪過多。ついに全身に赤い発疹が出た。
 病院めぐりをしたが原因不明、治療法不明。「こりゃ。一生治りませんな」と医師のご託宣。西洋医学に対する一倉先生の不信感がついに爆発した。
「まあ、見切りをつけたというのか、逆に突き離されたというのかね。残るは東洋医学と民間療法しかない。そこで私も勉強を始めたんです。行き着いたのが、石塚左玄先生の食養理論でしたね」
 著書のタイトルは『化学的食養長寿論』。明治29年初版の貴重品だ。その石塚理論は「ナトリウムとカリウムの拮抗原理」と呼ばれている。石塚左玄自身の命名では「夫婦アルカリ論」というそうな。この本を一読したとき、一倉さんはまさに「目からウロコが落ちた」思いだったという。
 それは、『食物を人体の側から論じている』ことであった。従来の食物研究が、食物の側からだけのものであったという、現在の栄養学の根本的な誤りに気付いたのである。
 石塚左玄についての研究は、当然、桜沢如一の存在に行き当たる。前述の解説のとおりである。一倉さんの食養法も、この石塚・桜沢理論を中核としている。桜沢如一も「玄米正食」の考え方を打ち出している。
 ところが、一倉さんはその“石塚・桜沢理論”を超えたとおっしやる。その理由を一倉さんはこう説明している。
「左玄の理論はいわば基本原理だけです。具体的な食養法には触れていない。桜沢理論はたしかに食養・治療に及んでいます。でも、治病においてはその理論の展開と実践を行ないましたが、健康維持つまり病気予防についてはあまり触れていません」
 そこで“一倉理論”は体調維持に焦点を合わせる。病気とは、体調不良の重くなったもの――という見解である。だから健康維持食をとれば体調不良は起こらない、体調不良がよくなれば病気もなくなる……というのである。
 もっとも、ここにいう健康維持食とは、別に特別な食事でも食事法でもない。日本の伝統食を基本に、わずかな修正をすればよいという程度。それだけで人体の持つ“自然治癒力”が驚異的に発揮されるIという。
「神は人体の健康を守るために、絶妙無比な生理機能を与えたもうた。それが自然治癒力です。自然治癒力こそ、神がすべての生物に与えたもうた“大慈悲”です」と、一倉さんは自著にそう書かれている。
 つまり、人間の体を自然治癒力が働ける状態に戻してやる――それが一倉さんのいう「正食」なのだ。そうすれば、どんな病気も治り、二度と再び病気どころか、体調を崩すことさえなくなってしまう、というのである。そのために一倉さんは「人間の生理を知れ」とおっしゃっている。
 たとえば水。一般的に言って現代人は、日常生活で水分をとりすぎるという。まる一日、水、湯、コーヒー・紅茶、酒類、ドリンク剤などいっさいを断ってみると、テキメンに体調がよくなる。
 漢方ではこれを“水毒”と言っている。5000年の経験に誤りはない。ということはいわゆる“水飲み健康法”などは大間違い――と“一倉正食理論”を断じるのである。
 ただし、味噌汁と、その他食物から摂る水分は別なのである。とくに味噌汁は、朝、昼、晩と続けていい。それも濃いほどいいという。塩分のとりすぎという心配はご無用。人間の生理からみて、塩分のとりすぎは不可能だという。

「血液というものは、神が定めた組成を持っています。血中塩分濃度0.85%というのが正常な組成であり、これは塩分の浸透力によって細胞内に栄養分を供給するのにもっとも適当な濃度なのです。また細胞内の老廃物を脱水力で吸引するのにも、もっとも都合のよい濃度です。塩分濃度がこれより下がると、体にさまざまな悪影響をもたらしますが、といって逆の“塩分のとりすぎ”という現象は絶対にあり得ないのです」

 羊水は塩水である。太古の海水とそっくりだという。この塩水の中で胎児は育つ。まさに塩こそ生命の源だ。
 ただしここでいう“塩”には前提がある。それは自然塩であることが必須の条件だ。いわゆる食卓塩(精製塩)は、塩化ナトリウムの純度99.5%のもので、これは毒である。塩分のとりすぎが高血圧を呼ぶ――というのは、この精製塩をさして言う言葉であり、自然塩とは無関係なのだ。
 自然塩である限り、とりすぎは体そのものが受け付けない。それが人体の生理というものであり。自然塩は血圧を正常に戻すのである。
 そして一倉さんは、「塩分不足」こそ諸病の根源――と断じられている。塩不足が全身に病気を引き起こす」というのだ。つまり新陳代謝障害その他である。これによって全身の細胞が栄養失調を起こし、全身の生理機能が低下する、というのである。
 そして一倉さんは、塩分不足を補う“特効薬食”として、「卵醤」をおすすめになっている。
「卵醤」とは、読んで字の如く生卵にタップリと辛口醤油を混ぜたものだ。処方は有精卵(手に入らない場合は無精卵でも)1個につき、殻の片方になみなみ一杯の辛口醤油を落としてかきまぜる。これをそのまま飲むか、白い御飯にかけて食べる。
 これを1日1個を限度に3〜4日続けていったん中止し、あとは体調を見ながら1か月数個とるくらいにする。これだけで体調は全く変わってしまい、体はホカホカとして気持ちよくなる。不思議なくらい疲れなくなって、夜は寝付きがよく熟睡し、朝は6時ごろには自然に目が覚める。「寝起きが悪いというのは塩分不足の証拠です。決して体質ではありません。でもこの卵醤療法で、朝型人間と夜型人間の両方兼備となります」――一倉さんの弁である。
 実際、一倉さんはこの卵醤療法で、多くの患者さんを全快させている。花粉症、中耳炎、高血圧、慢性頭痛、腰・膝痛・こむら返り。痛風などはたった1時間。あるいは自然海塩を足の裏にスリ込んで、寝たきり老人が立ち上がる……などという実例をお持ちなのである。
 その他、水虫、アトピー性皮膚炎、視力回復……。まさに万病に卓効を示しているのだ。
「脱力感というのは、すなわち塩不足と同義語です。スタミナが目に見えて衰える、体が疲れやすい、集中力がない……。これらはすべて、塩不足による全身の筋肉の衰えのためです。塩不足によって血圧が下がり。毛細管に必要な血液を送ることができなくなる。毛細血管に血液を送るのは心臓の働きですが、この筋肉が塩分不足でゆるんでしまっているためです……」
 一倉さんはこれらの白論を、『正食と人体』(T)、(U)(致知出版社刊)という書物にしておられる。一読して大変共感を呼ぶ読み物である。興味をお持ちの方はぜひご一読あれ。

 致知出版社
 東京都渋谷区神宮前六丁目十二番十八号
 TEL(03)3409−5632
 ※本コラムは『正食と人体』(T)、(U)より引用
 
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