フツーの人が書いた黙示録 肉食編 A 健康面から見た問題点 |
このことについては、当サイトに参考になる文献をアップしていますが、まだ目を通しておられない方も多いと思いますので、その中からさらに抜粋した内容をご紹介したいと思います。「肉食の是非」を考えるにあたっては、ここに載せたような知識が重要な判断ポイントになると思っています。
まず、『幕末名医の食養学』(沼田勇・著/光文社)の抜粋から――。ここでいう幕末の名医とは石塚左玄のことです。 |
『幕末名医の食養学』 沼田勇・著 光文社 |
肉食後、体内はどうなるか 仏教伝来後、肉食の習慣を断ってきた日本人が、何万年も肉食をつづけてきた欧米人なみの食生活に軽々しく切り替えてよいはずがありません。前にも記したように、モンゴリアンが肉食のイヌイットになるには1〜2万年の年月と厳しい淘汰が必要だったのです。 私たちが動物性食品を摂取すると、腸内菌はあの鼻持ちならぬ悪臭を発する化学変化を起こし、肝臓はそれを解毒するための働きを求められます。その肝臓に障害があれば、もちろん解毒できなくなり、その結果、アンモニア血症や肝性脳症、肝性昏睡などを引き起こします。寿命や老化に腸内菌が深くかかわっていることは明らかです。 肉食後の糞便のインドール(不快臭)は、菜食の場合の10倍になるといわれます。たとえ必須アミノ酸から成る優れた蛋白質でも、過剰に摂りこまれた分は排泄されるか、さもなければ肝臓に負担をかけるアンモニアの原料になります。しかもそのアンモニアは肝臓で尿素になり、これを排泄するにはたくさんの水を使わなければならず、排泄が不十分だと尿素から尿酸がつくられ、これが結晶状のまま関節周辺の軟組織に蓄積されて、あの激痛を伴う痛風を引き起こすのです。 肉を食べると当然、肉に含まれている燐酸や硫酸が血液を酸性にするので、これを中和させるために歯や骨のカルシウムを溶かすことになります。肉食の欧米人に骨粗しょう症や骨の多孔症、骨のわん曲が多いのはそのせいなのです。 ヨーロッパ人と肉食 ヨーロッパ人は昔から、ずっと肉食をつづけてきましたが、それにはそれなりの背景があります。 日本では台風も含めて多量の雨が降り、夏には太陽が照りつけるため、牧畜に向かない繊維の硬い植物が繁茂しています。この気候風土が日本人を、米や雑穀、野菜などをつくられる農耕民族にしたのです。牛1頭を飼うには1ヘクタールの牧草を必要としますが、その1ヘクタールから穫れる米は30俵から160俵で、12人から64人の人間を養うことができます。つまり日本は、その労力さえ惜しまなければ、牧畜よりはるかに効率のよい食糧(米)をつくる条件を備えているのです。 |
次は『体によい食事 ダメな食事』(幕内秀夫・著/三笠書房)の抜粋です。
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『体によい食事 ダメな食事』 幕内秀夫・著 三笠書房 |
「日本人は不思議なほど達者である――ザビエルが日本食を絶賛した理由
パプアニューギニアの高地に生活する人たちは、食事の90%以上がサツマイモで、肉や牛乳はほとんど口にしません。それでいて、筋骨たくましくよく働くといいます。日本の長寿村といわれた山梨県の棡原村の長寿者も、肉や牛乳などはほとんど食べなくても、なんら困ることなく重労働をこなしてきた人たちです。 あるいは、宗教的理由つまり戒律によって「肉を食べない」という人たちが世界にはたくさんいます。しかし、それらの人たちに特別に貧血が多いとか、がりがりにやせて力仕事もできない、などという話も聞いたことがありません。 日本の土を踏んだフランシスコ・ザビエル神父が本部あてに出した手紙には、次のように書かれています。 日本人は自分たちが飼う家畜を屠殺することもせず、またこれを食べもしない。彼らはときどき魚を食膳に供し、ほとんど米麦飯のみを食べるが、これも意外に少量である。ただし彼らが食べる野菜は豊富にあり、またわずかではあるが果物もある。 それでいて日本人は不思議なほど達者であり、高齢に達する者も多い。したがって、たとえ口腹が満足しなくても、人間の体質は僅少な食物によって十分な健康を保てるものであることは、日本の場合によっても明らかである。 まさに、日本人は肉や牛乳などほとんど口にせずに生きてきたのです。しかも、その歴史は10年や20年ではありません。現在の栄養教育の主張するように、本当に肉や牛乳が健康を維持するために必要なら、とっくに日本人は滅びていてもおかしくはないはずでしょう。 そして、現在の栄養教育からすれば栄養失調だったはずの私たちの祖母は、子供を10人も産んできたのです。それも特別な話ではなく、ごく当たり前の話だったのです。 「成長は早いが病気だらけ」の家畜――それを子供が食べているのです 肉そのものの性質を考えても、私は肉食に否定的にならざるを得ません。 畜産関係者にとってもっとも関心が高いのは「飼料要求率」だといいます。その動物の体重を1キログラム増やすのに何キログラムのエサを必要とするかという割合です。 少ないエサでどんどん体重が増えてくれれば、それだけコストが安くすむからです。特に最近では大規模な集約農場が増え、ニワトリなどでは何十万羽と飼っているところもありますので、コストに大きく影響します。いかに早く太らせるか。養豚業者にとっても、ブロイラー業者にとっても大切なことになります。 そこで多くの業者が密飼いをしているのです。豚、牛、ニワトリなどは、放し飼いをすると運動をするので、せっかくエサを与えてもエネルギーを消耗して肉付きが悪くなります。そこで考え出されたのが、動けないほどぎゅうぎゅうづめで飼うことです。それを密飼いといいます。 成長を早くするために、エサも現在の配合飼料は高タンパク質でできています。その結果、たしかに成長は早く、飼料要求率もどんどんよくなっています。 ただし、それに伴い病気も増えています。食肉検査は、屠殺場にきた牛や豚の内臓や肉に病変があれば、その一部または全部を廃棄処分にします。農水省の出した『家畜衛生統計』(平成14年)によると、「屠殺禁止・全部または一部廃棄」の牛は約95万頭で全体の76%、豚の場合は約100万頭で全体の66%になります。 最近では狂牛病が問題になり、牛丼が販売中止になる騒ぎが起きました。あれはおもにアメリカの牛肉の話でしたが、日本でも次々と感染牛が発見されています。起こるべくして起きたと言わざるを得ません。飼料添加物の名で、多種多様な薬がエサに混ぜられているといいます。このような肉を食べることが本当に健康によいといえるのでしょうか。 そして、高タンパク質・高エネルギーのエサを食べて、「成長は早いが病気だらけ」という家畜を考えたとき、現在の子供たちの姿と重なって見えてしまうのは私だけでしょうか。 |
最後が『肉食が地球を滅ぼす』(中村三郎・著/ふたばらいふ新書)の抜粋です。少し長くなりますが、これでも本の抜粋のさらなる抜粋です。食の問題について、私たちが最低知っておくべき内容が書かれていますので、ぜひ目を通していただきたいと思います。
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『肉食が地球を滅ぼす』 中村三郎・著 ふたばらいふ新書 |
肉食が生活習慣病を増やしていく
戦後日本では、GHQ(連合司令部)の思惑と、アメリカ風の生活を進歩と見る風潮が重なり合って、食生活の改善(改悪)が奨励されてきた。米を主食とする日本の伝統食は、欧米の食事に比べて栄養的に問題があるとされ、また欧米人並みの体位への向上を図るために動物性タンパク質を多く摂る食生活のスタイルが植えつけられていった。 そのため、肉や卵、牛乳、バターといった高タンパク質食品が急速に普及していく。なかでも肉の消費量は、驚異的な勢いで増加していくことになる。1995年の年間消費量は20万トン足らずだったのが、小麦食が定着した65年には100万トンに達し、その後も消費を伸ばし、2002年現在では560万トンにのぼっている。50年の間になんと30倍にも増えたのである。 肉はたしかにうまい。そのうま味が、まず好まれるのだろう。肉がうまいのは、そこに脂肪が含まれているからだ。だが、この脂肪がくせものなのだ。肉の主成分はタンパク質と脂肪だが、分子構造上、高分子のタンパク質は味がなく、低分子の脂肪は味があるのでうまく感じる。牛肉でも豚肉でも、ロースのほうがモモ肉よりもうまいのは脂肪が多いからである。 肉を食べる際には、うま味のある脂肪の多い肉を、つい選ぶようになる。するとタンパク質よりはるかに多く脂肪を摂取してしまう。 脂肪は、植物性と動物性に分けられる。植物性には、必須脂肪酸であるリノール酸が多く含まれ、体内のコレステロールを下げる働きを持つ。コレステロールはご存知のように、血管内にたまって動脈硬化の原因となる物質である。動物性には飽和脂肪酸が多く、コレステロールを体内に蓄積しやすい。 動物性脂肪を摂りすぎると、コレステロールの蓄積によって動脈硬化性疾患を引き起こし、心疾患や高血圧症、糖尿病、脳血管障害などの生活習慣病にかかることが、すでに指摘されている。アメリカ公衆衛生局の報告によると、アメリカ国内の病気による死亡者の70パーセントが動物性脂肪の過剰摂取が要因と思われる生活習慣病で死亡しているという。 食肉消費国の欧米では、こうした動物性脂肪の摂取過多による慢性病が大きな社会問題になっているが、さらに最近増加しているのが、ガンの発生である。ガンの発生は、もちろん脂肪の摂りすぎも関係しているが、動物性タンパク質も、また大きな要因となっている。タンパク質が体内に多くなると、トリプトファンという必須アミノ酸が腸内の細菌によって分解され、発ガン物質あるいはこれを生成する物質が促進されるからだという。 近年、アメリカでは肥満や生活習慣病を防ぐために、脂肪の少ない赤身の肉を食べる女性が多い。しかし、赤身の牛肉を毎日食べている女性は、肉を全く食べないか食べても少量の女性に比べ、大腸ガンにかかる確率が2.5倍も高かった。動物性タンパク質とガンの関連性を調べた調査では乳ガンの発生率も多かったという。また、肉の中に含まれる多量の鉄分も発ガンを促進するといわれる。つまり脂肪の多い少ないにかかわらず、肉食自体がさまざまな病気を引き起こす原因になりうるということなのである。 日本でも、肉食の増加にともなって生活習慣病が確実に増えてきており、ガンの発生も多くなっている。それまで日本人にはほとんど見られなかった大腸ガン、乳ガン、前立腺ガンなど、食肉消費国の欧米に多いガンが顕著な増加をしている。たとえば、大腸ガンによる死亡率は、まだ肉食の習慣がなかった1944年には、10万人にわずか2人だった。当時、アメリカでは10万人に16人と日本の8倍におよんでいた。その後、日本での大腸ガンによる死亡は68年に4人、88年には12人にのぼり、そして2000年には30人と、50年でほぼ15倍に増えているのである。 アメリカやイギリスなど食肉消費国40カ国を対象に、統計調査が行なわれたことがある。その結果、肉食による脂肪とタンパク質の摂取は、いずれの国でも動脈硬化にともなう心臓疾患、大腸ガン、乳ガン、子宮ガンなどと強い相関関係があることが示された。そして、とくにガンにおいて、米、大豆、トウモロコシなどの穀物は、その発生を抑制する働きを持つことも明らかになったという。 また、カナダの専門家による調査報告では、食肉(特に牛肉)が、ガンの発生、進行を促すことは否定できないとし、野菜や繊維質食品を多く摂取する食生活に変えなければ、ますます病気が増えていくおそれがあると警告している。 子供の健康を害する学校給食 戦後、肉食を中心とした欧米風の食生活の推奨によって、日本人の体格はどんどん向上した。体が一回りも二回りも大きくなっただけでなく、脚もすらりと長くなり、スタイリッシュな体型に変わった。 が、その一方で、ゆゆしき問題が持ち上がっているのだ。それは最近、子供たちの間にも、生活習慣病が急速に増えていることである。東京女子医大が首都圏の小、中、高校生を対象に調査した結果、20人に1人が動脈硬化や高血圧の傾向にあることがわかったという。 子供の生活習慣病の増加には、学校給食が大いに関係しているといっていい。 現在の学校給食には、大きく言って2つの問題がある。1つは、肉や卵、乳製品を重視した献立である。子供の発育には動物性タンパク質の摂取が不可欠であるという栄養観に立っているから、どうしても献立の食材は動物性食品に偏ってしまう。 もう1つの問題点は、子供に動物性食品偏重の栄養知識を植えつけてしまうことだ。学校という教育環境の中で出される食事だから、頭から肉や卵、乳製品が健康に最も大事な栄養源だと信じ込んでしまう。その栄養観が家庭に持ち込まれ、つねに動物性食品がメインの食事を摂るようになる。次第にコレステロールなどの有害物質が蓄積されていき、高血圧や動脈硬化を引き起こしていく。 今、日本人の平均寿命は、男性が77.9歳、女性84.7歳で、世界一の長寿国である。これはうれしいことだが、この長生きを現代の子供たちに求めるのは無理だろう。 人間の健康維持能力の基礎は、だいたい15歳から20歳くらいまでの間に形成される。日本人の寿命の長さを支えているともいえるお年寄りの人たちは、明治、大正、そして昭和初期に生まれた人たちである。この人たちは、戦前、戦後を通じて、粗食とはいえ欧米化されない日本伝統の食習慣を持って生きてきた。つまり、生命力の基本を作る青春期を、日本古来の食文化の中で育ってきた人たちなのである。 現代の子供たちを取り巻く食環境は、この人たちと正反対のところにある。飽食と動物性食品の食事にどっぷりとつかってしまっている子供たちは、だから短命に終わる可能性が高い。成人に達する頃にはさまざまな病気に苦しむことになるのではないか。 世界に広がる日本の伝統食 食生活の欧米化が推奨され、動物性食品を多く摂るようになって、日本人はさまざまな疾患に悩まされることになったわけだが、一方で、今、アメリカでは皮肉な現象が起こっている。日本食ブームである。 アメリカの多くの大都市で寿司バーが続々とオープンし、スーパーでもパック入りの寿司が売り出され、テイクアウト食品として人気を集めてきている。また、豆腐やそば、そしてこれまではほとんど見向きもされなかった梅干し、納豆なども流行しだしているのだ。ハリウッドのある有名なレストランでは、カボチャや大根、ヒジキなどの煮物料理が、スターたちの間で好評を得ているという。 食肉の日常的摂取が健康に悪いという知識が、アメリカ国民の間に広まってきている証左といえるが、この日本食ブームは、アメリカ政府が1977年に発表した「理想的な食事目標」がきっかけである。通称「マクガバン・レポート」「」といわれるもので、アメリカ国民の動物性食品の摂取が危機的過剰レベルにあるとして、摂取量の抑制基準を作成、国民に報告して食生活の改善を呼びかけたのだ。 その内容は、戦後、西洋化する前の日本人の食事における栄養摂取と非常によく似ている。何のことはない。日本の伝統食を参考にしたものなのである。日本人にさんざん肉を食わせておきながら、日本食を「理想の食事」とは、何とも無節操な、日本を小馬鹿にした話である。 ところが「マクガバン・レポート」を発表した後も、アメリカ国民の肉類の過剰摂取になかなか歯止めがかからない。年々、心臓病やガンなどの生活習慣病の発生が増加、死亡者が多くなっていく一方だった。国民は健康に不安感を強く募らせるようになり、肉食を中心とする食生活を改める動きが広がっていった。 最近、アメリカだけでなく、ヨーロッパ諸国でも肉類の過剰摂取の問題が注目され始め、日本食を採り入れることで、その量を抑える動きが見られる。ドイツやフランスでは、米と野菜の雑炊や豆腐ステーキ、豆腐サラダといった豆腐料理などが、すでにポピュラーになっている。肉食過多に対する見直し、そして低脂肪、低カロリーの日本の伝統食の普及は、今後、世界的な流れになっていくのではないか。 日本の伝統食とは、一般的に、米を主食とし、その副食としてその土地で産する豆、野菜、魚、海草などを取り合わせた食事とされている。たしかに、猪、鹿、ウサギ、野鳥のほか、鶏や豚、農耕用に使えなくなった牛馬なども食べられていた。しかし、それらの肉を食べることを「薬食い」と言っていたことからみると、肉食は、通常の食生活におけるタンパク質源としてではなく、病気やハレ(祭りや祝い事)の日など、何か特別なときに口にするものだったのではないかと思われる。 日本では古来から肉食はタブーとされてきて、その背景には殺生を罪とする仏教観があったからだ。天武天皇が肉食禁止令を出して7世紀より19世紀(江戸末期)までの間、公的には肉食は禁じられていた。ただし、魚肉は例外で、魚の殺生は許されていた。海に囲まれた日本は昔から魚を日常的な糧としてきたため、おそらく魚肉までは禁止することをしなかったのだろう。 こうしたことから、日本は米を基本に植物性食品を主体とする食事を何世代にもわたって守ってきたのであり、その食事が「日本の伝統食」であると理解できるのではないだろうか。 肉食は人類を破滅に導く 欧米諸国になぜ肉食文化が生まれたのか。それは、端的に言えば風土と思想に起因する。つまり、ヨーロッパは農業に依存できない気候風土であるために、必然的に肉食が中心の生活にならざるを得なかったのである。 また、彼らの肉食には、キリスト教的世界、あるいはそれ以前のユダヤ教的世界の思想が背景にある。「すべての動物は人間が利用するために作られたものであり、神は家畜や鳥、魚、すべての地球上の生き物を人間が食べるように用意してくれた」という『旧約聖書』の教義である。旧約聖書は、すべての生き物は人間のためにあり、自然は人間が征服するべきものと説く。この自然観は、我々日本人(東洋人)にはとても理解しがたい。 地球上には、多種多様な動植物が複雑にからみあった生態系を形成して生きている。植物は太陽エネルギーを受けて無機物を有機物に変え、動物のエサとなる。動物は、さらに上位の食性順位にある大型の動物に捕食される。このように自然界では、食を通して相互に依存し合うシステムが機能している。 人間が食肉とする牛や豚、羊などの動物は、人間と同じ哺乳動物である。したがって、彼らは自然界にあって、食性順位が人間にきわめて近しい地位にあるといえる。その人間と生物学的に近親で、ある種、同族に近い動物を食するということは、カニバリズムに接近することであり、非常に危険な行為なのである。 ところが、「肉食動物」となった人間はこのタブーを犯し、人類を破滅の方向へと向かわせていると言えるのだ。現在、世界において、一方で肉の飽食が問題に上がり、他方で飢えで苦しむ人たちが多数いる状況の中にあって、なおのこと肉食から離れるべきなのである。 日本の食文化を守っていく 人間は、その土地の歴史に育まれた固有の食物を柱に、それぞれの食文化を形成してきた。食物に調理の工夫をこらし、味を深め、個性豊かなものにして生活の糧としてきた。人間が食を選ぶのではなく、住みついた土地の自然がもたらす食物を巧みに活用してきたのであり、食生活は、土地や風土を抜きにして考えることはできないのである。 たとえ、さまざまな食品の流通が盛んになったとしても、食の地域性は尊重されてしかるべきである。我々が日常、物を食べるのは、空腹を満たす生理的栄養の摂取のためだけではなく、精神的、文化的滋養の充足もまた求めているからである。 しかし、現代の日本はそれから遠く離れてしまった。悲しいことに、米を食べると頭が悪くなるとか、肉を食べると元気になるとか言いくるめられ、欧米文化に劣等感を抱きながら「西洋化が食生活の近代化であり高級化である」という考え方に洗脳されてしまった。そして、この考え方が伝統的な食の軽視、ひいては国内の食糧生産の衰退や、農地の荒廃を招くことになってしまった。 こうした発想は、敗戦直後の食糧難や栄養不足におちいっていた頃には、それなりに意味と合理性があった。だが、狂牛病を始め、さまざまな食肉汚染問題が深刻の度を増している現在、肉食中心の食生活から脱却する食の転換が必要なのではないか。 それぞれの民族はその風土で育ち、これからも生活を続けていく。それが宿命でもある。ならば、生活の基礎となる食は、その民族、国の自然環境に一番ふさわしい生産性を軸にしてつくり出していくべきだろう。 肉食生活に終止符を打ち、古来からの伝統食の原点に立ち返る。それが、真の食生活の向上と未来の活力を生むのであり、そのための知恵が、今、我々に求められているのではなかろうか。 ――『肉食が地球を滅ぼす』(中村三郎・著/ふたばらいふ新書) |
このように、健康問題を初めとしてさまざまな理由から、「私たち日本人は肉は食べないほうがよい」という結論になります。 それでも、肉食の問題を自分の健康問題としてしか考えない人に、「肉は食べないほうがよい」などとお節介をするつもりはありません。それは全くの自己責任ですから、「どうぞお好きなだけ召し上がってください」と申し上げたいと思います。 ただし、自分が食べるのはよいとしても、多くの人に向かって「肉は食べても大丈夫だ」と断言することは控えるべきでしょう。ここに紹介した文献だけを見ても、肉食にはいろんな意味で大きな問題があるのは間違いないことだからです。 上記の文中に出てきた「マクガバン・レポート」について調べていただければ、肉食中心と見られてきたアメリカやヨーロッパの国々で、中流以上の階層の人たちの間では秘かに日本食がブームになっている理由もおわかりになると思います。 「マクガバンレポート」とは 1970年代、アメリカでは国民の間に心臓病やガンが多発し、その医療費で国家予算の大半が費消されるようになっていました。そのことに危機意識を持った政府が、上院議員のマクガバン氏を委員長とする「国民栄養問題アメリカ上院特別委員会」なるものをつくり、世界の最高権威とも言える医師や栄養研究家を集めて、7年間の調査・研究の末にまとめられたのが「マクガバンレポート」と呼ばれるものです。 レポートは5,000ページにも及ぶ膨大な内容からなっていますが、その結論は以下のように大変シンプルなものです。 わが国(アメリカ)で心臓病やガンなどの慢性病にかかる人が増えつづけているのは、食生活に問題があったからだ。いまこそ肉食中心の間違った食事をやめて、未精製の穀物や野菜、海藻などを中心とした食生活に改めるよう勧告する。 もっとも理想的な食事は、日本の伝統的な(元禄時代以前の)食生活である。つまり、精白されない穀物、季節の野菜、海藻、小魚などを中心とした食生活にすることである。 ところが、このマクガバンレポートは、当時の畜産業界などから猛反発され、政治家への圧力がかけられて、やがて一般国民の話題に上らないように情報操作されていくのです。報告書をまとめた責任者のマクガバン氏は、当時は将来有望な政治家だったのですが、このレポートのおかげで政治家としての影響力を失っていったとも言われています。 今日でも、BSE(狂牛病)問題でわが国はアメリカの牛肉の輸入を一時止めていましたが、アメリカでは畜産業界から歴代の大統領にもさまざまな圧力がかかっているのはご存じの通りです。アメリカには、肉をどんどん食べてもらわないと困る強大な政治勢力があるからです。そしてその裏には、世界の穀物市場を完全に支配している企業群があるのですが‥‥。 |
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